グリムの法則とは?語源がつながる6つの音変化パターン
英単語の多くがラテン語やギリシャ語の語根から育っていることは、もうご存じかもしれません。でも、ここでひとつ不思議なことがあります。同じ語根のはずなのに、単語によって見た目がずいぶん違うのです。describe なのに、名詞になると description。father と paternal は、つづりを見るかぎり赤の他人。in- はなぜか im- に姿を変えることがある。
その謎を解く鍵が音の変化のパターンです。語根の意味はそのままに、見た目だけを規則的に変えてしまうルールのこと。この記事で紹介する6つのパターンを知っておけば、これまで無関係に見えていた単語どうしが、じつは同じ家族だったと気づけるようになります。
1. グリムの法則 — ゲルマン語で起きた大きな子音のずれ
19世紀、ヤーコプ・グリム(そう、あの『グリム童話』のグリム兄弟の兄です)は、ラテン語・ギリシャ語と、英語を含むゲルマン語の単語を見比べると、子音が規則正しく対応していることを見いだしました。これがグリムの法則です。中心となる対応は次の3つです。
| ラテン語 / ギリシャ語 | → ゲルマン語(英語) | 例 |
|---|---|---|
| p | f | pater → father、ped- → foot |
| t | th | tres → three、tenuis → thin |
| k / c | h | cor → heart、centum → hundred |
英語に「ふたご」のような単語のペアが多いのはこのためです。同じ大昔の語根から、ゲルマン系の日常語と、ラテン語・ギリシャ語系のかたい言葉が一つずつ生まれているのです。
- foot(ゲルマン系)/ pedestrian(ラテン語 ped-)— どちらも「足」
- heart(ゲルマン系)/ cardiac(ギリシャ語 kardia)— どちらも「心臓」
- three(ゲルマン系)/ triple(ラテン語 tri-)— どちらも「3」
見分け方: ラテン語・ギリシャ語の単語と英語の単語のあいだに p↔f、t↔th、k↔h の対応が見えたら、同じ古い語根から来ている可能性が高いと考えましょう。
2. 有声・無声の入れ替わり — ペアで動く子音
子音には、声帯をふるわせる「有声音」とふるわせない「無声音」のペアがあります。同じ語族の中では、子音がこのペアに沿ってよく入れ替わります。
| ペア | 例 |
|---|---|
| b ↔ p | describe → description |
| d ↔ t / s | expand → expansion |
| v ↔ f | prove → proof |
| z ↔ s | analyze → analysis |
とくによく起きるのが、動詞の語幹に名詞や形容詞をつくる接尾辞がつくときです。語幹の最後の子音が、無声の音に変わることがよくあります。
- absorb → absorption
- decide → decision
- concede → concession
見分け方: b/p、d/t、v/f、z/s。2つの単語が、この子音の入れ替わり以外はほとんど同じなら、ほぼ間違いなく同じ語根から来ています。
3. 鼻音の同化 — カメレオンのような接頭辞
接頭辞 in-(「〜でない」または「中へ」)は、すぐ後ろに来る音に合わせて、最後の子音を変えてしまいます。これを同化といいます。鼻音の n が、隣の子音に「なじんで」しまうイメージです。
| 後ろに来る音 | in- の形 | 例 |
|---|---|---|
| b, p, m | im- | in- + possible → impossible |
| l | il- | in- + legal → illegal |
| r | ir- | in- + regular → irregular |
| それ以外 | in- のまま | in- + visible → invisible |
ほかの接頭辞にも同じことが起こります。
- con-(ともに):compress、collect、corrode、connect
- ad-(〜へ):accept、aggressive、approve、attract
- syn-(ギリシャ語で「ともに」):sympathy、syllable、system
見分け方: im-, il-, ir-, com-, col-, cor-, ac-, ag-, ap-, at- で始まる単語に出会ったら、接頭辞をもとの形(in-, con-, ad-)に戻してみましょう。残った部分に語根が見えてきます。
4. 母音の交替 — アプラウト(ablaut)
関連する単語どうしでは、子音の骨組みはそのままで、母音だけが規則的に入れ替わることがあります。これを**母音交替(ablaut/アプラウト)**と呼び、インド・ヨーロッパ語族でもっとも古いパターンの一つです。
| 母音の変化 | 例 |
|---|---|
| i ↔ e ↔ a | sit / seat / sat |
| i ↔ o | write / wrote、ride / rode |
| a ↔ e ↔ i | fact / effect / sufficient |
ラテン語から来た単語では、接頭辞がつくと語根の母音が弱まることがよくあります(くわしくは次のパターン5で)。
- capio(つかむ)→ receive、perceive、conceive
- facio(作る)→ efficient、sufficient、deficient
- teneo(保つ)→ retain、contain、maintain
見分け方: 子音の並びが同じで、母音だけが違う2つの単語を見つけたら、母音交替を起こした同じ語根ではないか確かめてみましょう。
5. ラテン語の母音弱化 — 変装した語根
ラテン語の語根が複合語の真ん中(接頭辞のうしろ)に入ると、もともとアクセントのあった母音が -i- や -e- に弱まることがよくあります。語根が単独のときと複合語の中にいるときとで見た目が違うのは、このためです。
| 単独の形 | 複合語の中 | 語根 |
|---|---|---|
| capio(つかむ) | receive、perceive | cap- / -cip- |
| facio(作る) | efficient、deficient | fac- / -fic- |
| claudo(閉じる) | include、exclude | claud- / -clud- |
| statuo(立てる) | institute、constitute | statu- / -stitu- |
一見「不規則」に見える語族の多くは、このパターン一つで説明がつきます。fact と efficient、claudo と include のように、つづりがずれていても同じ家族だとわかるのです。
見分け方: 接頭辞のうしろにある語根は、母音が弱まっていることが多いもの。母音の違いには目をつぶって、子音の骨組みに注目しましょう。
6. ロタシズム(s が r になる)と語幹の交替
ラテン語では、母音にはさまれた -s- が規則的に -r- に変わりました。そのため、見た目は違っても中身は同じ語根のペアがたくさん生まれています。
| s の形 | r の形 | 意味 |
|---|---|---|
| genus | generic、generate | 生まれ、種類 |
| corpus | corporal、corporation | 体 |
| tempus | temporary、temporal | 時 |
| flos | floral、florist | 花 |
ほかにもよく見かける語幹の交替があります。
| パターン | 例 | 語根 |
|---|---|---|
| -nd- ↔ -ns- | expand / expansion | pand-(広げる) |
| -mit ↔ -mis- | transmit / transmission | mit-(送る) |
| -g ↔ -ct- | agent / action | ag-(行う、動かす) |
見分け方: 単語の形のあいだに -s- / -r-、-nd- / -ns-、-mit / -mis- の入れ替わりが見えたら、それは同じ語根が文法上の役割に応じて形を変えただけです。
組み合わせて使ってみる
では、いくつかのパターンを同時に使って、単語を読み解いてみましょう。
inflammation ← in + flamm + ation
- 鼻音の同化(パターン3):in- は f の前でも in- のまま。im- にならないのは、f が同化を起こす音(b, p, m, l, r)に入っていないからです。ここでの in- は「中へ」の意味です。
- 語根 flamm- は「炎」。これはそのままですね。
- 接尾辞 -ation は名詞をつくる接尾辞です。
- 文字どおりには「火をつけること」→ 医学では、体の組織が赤くはれて熱をもつ「炎症」を指します。
congregation ← con + greg + ation
- 鼻音の同化(パターン3):g は同化を起こす音ではないので、con- はそのまま残ります。
- 語根 greg- は「群れ」(gregarious「群れを好む、社交的な」にも見られます)。
- 文字どおりには「群れとして集まること」→ 人々の集まり、特に教会の「会衆」を指します。
早見表
| # | パターン | 覚え方 | 主な対応 |
|---|---|---|---|
| 1 | グリムの法則 | 「ゲルマン語では息がもれる」 | p↔f、t↔th、k↔h |
| 2 | 有声・無声の入れ替わり | 「ペアで入れ替わる」 | b↔p、d↔t/s、v↔f、z↔s |
| 3 | 鼻音の同化 | 「カメレオン接頭辞」 | in→im/il/ir、con→com/col/cor、ad→ac/ag/ap/at |
| 4 | 母音の交替 | 「母音は流れる」 | sit/sat/seat、fact/effect/efficient |
| 5 | 母音弱化 | 「複合語の中で語根は縮む」 | capio→receive、facio→efficient |
| 6 | ロタシズム | 「s が r になる」 | genus/generic、corpus/corporal |
次に知らない単語に出会ったら、この6つのフィルターに通してみてください。「不規則」に見えていた語族の多くが、ルールさえ知っていれば驚くほど規則的だとわかるはずです。
次のステップ
これらのパターンが実際の単語でどう働いているかは、語根の一覧で確かめられます。どの単語も、語根・接頭辞・接尾辞といったパーツに分解され、色分けして表示されます。